第2回 :「涙ぞおつる」前編
〈前回の私〉
見習いスタッフとして『犬と、走る』の原稿に目を通すうちに、すっかり本多さんの魅力に取り憑かれた私はすでに単なるファンの人。
本多さんが出版イベントのために帰国するとなってはいてもたってもいられない。なんとか彼女の魅力の秘密に迫りたい!
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2014年4月23日午前11時すぎ
「こんにちはー」
驚いたことに、“まんま”でありました。
本多さんをサポートする「地平線会議」代表であり、『犬と、走る』でも編集協力をしていただいた江本嘉伸さんと共にオフィスに現れた本多有香さんは、1000回近く見た写真のなかの彼女とまんま同じでありました。
髪型とか、体型とかではなく、人間が。
私に人を見る目があるのか、佐藤日出夫さんの写真が素晴らしいのか。
いわずもがな後者でありましょう。
背を丸めて、何度も会釈をしながら奥の会議室へ入っていく本多さん。
(本物を前に心臓バクバク!)

時折くるくるとペンを回しながら大量の著書にサインを入れていく本多さん。
頼もしい上腕二頭筋、惚れ惚れする腕橈骨筋(わんとうこつきん)から繰り出されるそのスピード技で、あっという間にサイン本が積まれていきます。

ほのぼのイラスト付き手書きPOPも。
本多さんがサインをする傍らでイベントの打ち合わせ。
この日はかねてよりの目論見であった「彼女の魅力の秘密に迫る」ことはなかなかできませんでした。(仕事しろ私)
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4月25日
イベント当日。

会場である中華料理屋の一角にサイン本販売ブースをセットし、いざスタート。

本多さんの乾杯を始めに、ゆかりのある方々がマイクを握ってスピーチします。

冒険家であり、現在は富山県立大学教授の九里徳泰さん(右)。

マッシャー(犬ぞり師)としては本多さんの大先輩、1990年に国際隊の一員として犬ぞりとスキーによるグリーンランド縦断、そして史上初の犬ぞりによる南極大陸横断という偉業を成し遂げた、冒険家の舟津圭三さん(右)。
著名な冒険家や関係者が次々とマイクを握る中……隅っこであわあわしてました、私。写真を撮っては本を売って。本を売っては写真を撮って。
しかしここで怖じけては、本多さんの秘密に迫れません。もっと接近して写真を撮らねば!
けれど、みなさんのお話を聞いているうちに、そんな必要はないことに気がつきました。
本多さんと長いお付き合いをしている方々のお話は、どれも本多有香さんという人間を包み隠さないもので、深い愛に満ちていたのです。
(まあ確かに)ほとんどがお酒にまつわるお話でしたが、、、(本多さんは大のビール好き)。
枠にとらわれず真っ直ぐな性分である彼女のことを、皆さんとても嬉しそうに語るのです。
いわゆる「常識」を軽々と飛び越えていくこと。
そもそも「常識」と思われているものがどれだけ彼女にとって色彩をもたない世界であるのでしょうか。
“残念なことに、私が父から受け継いだのは、明晰な頭脳ではなく、変わり者の気質と走るのが得意な筋肉質の体だけだ”(『犬と、走る』P.22)
本多さんは自分を「変わり者」だと自覚しています。本当のことは誰にもわからないけれど、常識から逸れることを変わり者というのなら、彼女はそれを自覚しています。
私はデジカメを向けて、そこに映る本多さんを見つめます。
レンズの向こうで本多さんの手がビールを探し求めています。
それを見て私の心の中に一つの単語が浮かびます。
「したたかさ」
それも自分の心に素直に従う「したたかさ」
“やる”か、”やらない”か、よりももっと根源的な部分、
“したいか”、”したくない”か。
その選択を前にして、心のままに、進むこと。
彼女の瞳の奥にはブレない軸があって、複数の選択肢を前にしても、きっと自分の心が一番震えたものを選ぶ。
本多さんがカナダへ修行にいく決意を固めたとき、もちろん不安がなかったわけではありません。