『夜中の電話 父・井上ひさし 最後の言葉』が発売になりました。
この本がこうして世に出るまで、思い起こせば3年の月日を要しました。
「父が亡くなる前、夜中に電話がかかるようになって、その時書き留めた言葉が、今生きる支えになっているんです」
そう著者の麻矢さんから聞いたのは、今から3年前のことでした。
作家・井上ひさしが、最後に残した言葉がある!
それは衝撃と共に大変嬉しいことでした。
生涯、日本語を大切にした井上ひさしさんが命を削るようにして残した言葉は、必ずや今を生きるたくさんの人々の生きる指針になるに違いない。
だからこそ、娘の麻矢さんの文章でぜひ1冊にまとめたい・・・。
一人の編集者として、強くそう思いました。
タイトルは始めから決まっていました。
「夜中の電話」これしかない、と。
麻矢さんは、原稿依頼を快く引き受けてくれましたが、それから原稿とのたたかいが始まりました。
決してうまくいっていたとは言いがたい、ひと組の父娘。
それまでの気持ちをまずは全てはきだすことが必要だったのでしょう。
書き上がった最初の原稿は、なかなかに衝撃的な内容で、それなりにおもしろかったけれど、正直それと「井上ひさしの言葉」をつなぎ合わせることは不可能な気がしました。
こうして初原稿はしばらくの間、再考の時を待つこととなり──。
それから1年後、「こまつ座」社長の麻矢さんは、次々と芝居を成功させて行く中で、プロデューサーとして大きな成長を遂げていました。
麻矢さんはこの頃、再び原稿を書き始めます。
その内容は、一稿目とはガラリと変わって、父ひさし氏への尊敬と愛情にみちた「父恋い」とも言えるものになっていました。
その変貌は、心境の変化というには余りに大きなものでしたが、仕事やプライベート面の変化がそれをもたらしたのは確かでしょう。
娘と父の厳しくもあたたかな心の交流、病を押しても伝えたかった大切な言葉は、麻矢さんの解説が加わったことで、ますます生き生きと伝わってきます。
世の中は、仲のいい親子ばかりではない。
しかし様々な心の葛藤をこえて初めてわかりあえる、そんなこともあるんだと信じさせてくれる1冊になったと思います。
井上ひさしさんが残した77の言葉を噛みしめるとき、ある1組の父娘の、やっと訪れたこころの溶け合うときを感じ、それにも静かに感動しています。
担当 SMZ
