「匠たちの名旅館」装丁の秘密

おかげさまでたいへん好評をいただいている弊社新刊『匠たちの名旅館』。
もちろん、そうした賞賛は著者の稲葉なおとさんの感動的な文章と、そして美しい写真の数々に向けられたものですが、と同時に、読者のみなさんが口をそろえておっしゃるのは「こんなに美しい本、見たことない!」というお褒めの言葉です。

この本の装丁は前回のブログにも書いたとおり、この本はデザイナーの大森裕二さんによるものですが、「美は細部に宿る」という言葉どおり、この本の美しさの秘密は表紙カバーや帯といった「外側」だけではなく、ありとあらゆるディテールが作り込まれているところにあるのです。

実際には書店さんの店頭でお手に取っていただくのがいちばんいいのですが、つたない担当者の写真ですが、その魅力の一端をご紹介したいと思います。

まずは表紙カバー。このカバーの見所はなんといってもタイトルのロゴの美しさ。

光源の位置によって、文字が光って見えることでスミ箔であることがわかります。
光源の位置によって、文字が光って見えることでスミ箔であることがわかります。


 

 

 

 

 

 

 

 

メインタイトルは「スミ箔」と言われる特殊印刷を用いたもの。普通の黒インクよりもずっとあざやかに、そして浮き上がって見えるところがミソです。

さらに大森さんの仕事全体に通じることですが、ロゴが美しい! 昔の活字を思い出す、雰囲気のあるフォントは大森さんが既成のフォントに手を加えて作り上げたものだとか。

さて次に表紙を開いてみると・・・なんと「見返し」の部分にカラー写真!

外側はスミ一色だけの渋いデザインだけに、この鮮やかな色は意外でもあるし、昔の粋人たちが羽織の裏地にこだわったという逸話も思い出します。
ここで使われている写真はもちろん著者の稲葉さんが撮ったもの。本書の中で登場する名旅館のすぐれたデザインや意匠を象徴するショットを厳選しました。

 

表紙を開けるとカラー写真が。
表紙を開けるとカラー写真が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして本文!
ここでもきっと読者は「!」と仰天するに違いありません。というのも、本文が紙の端(専門用語では「小口<こぐち>」と言います)ぎりぎりまで印刷されているからです。

 

裁ち落としぎりぎりまで本文が印刷されています。
裁ち落としぎりぎりまで本文が印刷されています(クリックすると拡大されます)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普通だったらこんな余白のない本はありえません。しかし、今回はあえてその「ありえない」ことに挑戦。その理由はいくつもあるのですが、ここでは「本文がページ単位で途切れるのではなく、巻物のように続いていくイメージにしたかった」という、デザイナーの大森さんの言葉をご紹介するにとどめます。

そして各章の最後を飾る建物写真! およそ90ページ近い写真はもちろん著者が10年の歳月をかけて撮りためていったベストショットの数々。もともとの写真はカラー(ほとんどはポジフィルム)で撮られているのですが、今回はあえてモノクロにしてみました。谷崎潤一郎の『陰影礼賛』の世界ですね!

モノクロ印刷の深みを出すために2つのインクを掛け合わせています。
モノクロ印刷の深みを出すために2つのインクを掛け合わせています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

といっても、単にモノクロにしただけでは日本建築に独特の「陰影」が出ません。そこでここでは黒のほかにもう1色を足すことで、色に深みを加えています。

しかし、多くの人はあまりに自然な発色なのでそうしたテクニックを使っているとは気がつかないかもしれません。そこで大森さんは1カ所だけ「2色印刷」なんだとわかるところを用意しています。それがこのページ。
「昭和の左甚五郎」と言われた平田雅哉が仕事の合間に作った木彫を紹介しているページがそれ。写真の外側に地色として「もう1つの色」が使われていることがわかります。

写真の外側に使われているのが「もう1つのインキ」です。
写真の外側に使われているのが「もう1つのインキ」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、さらにマニアックな「こだわり」を最後にご紹介しましょう。
それは表紙(ハードカバー)と本文との高さがほとんど違わない!

表紙と本文の「段差」がほとんどありませんね。
表紙と本文の「段差」がほとんどありませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツライチ」(まったくのフラット)とまではいきませんが、「ほぼフルフラット」を実現してみました。
ここはさすが気づく人は少ないと思いますが、普通の本と違って「持ち心地がいい」というお褒めをいただく理由は実はここにあるのです!

このほか「大森デザイン」の工夫は数限りないのですが、今日はこんなところで!
ぜひみなさん書店で本書を手にとってみてください!!