『ぼくたちは戦場で育った』著者のヤスミンコ・ハリロビッチさんたちがこの5月4日、サラエボで「子ども戦争博物館」のプレ展示会を開催したというニュースが届きました。
地元のニュースサイトでも大きく採り上げられているとおり、サラエボの歴史博物館で開かれた展示会は雨の中、数百人の人が行列を作ったほどの大盛況!
この「子ども戦争博物館」とは、ヤスミンコさんが『ぼくたちは戦場で育った』を編集する中で着想を得たもの。
同書はショートメールの文字数の中で、1992年から1995年までのサラエボ包囲の中、子ども時代を過ごした人たちに「あなたにとっての戦争時代の記憶とは?」と問いかけたものです。
そこには家族や友人を銃弾や砲撃によって喪った悲しみも、また、食糧も水も、あらゆるものが乏しい中、友だちと楽しい時間を過ごした記憶も、さまざまに語られているわけですが、そうした中、投稿者から「実は子ども時代の思い出の品を今でも持っているんだ」という情報が多数寄せられたそうです。
それは日記だったり、写真だったり、お気に入りのぬいぐるみだったり、実にさまざまなものがあり、それらは「戦場で育つ」ということはどんなものかを雄弁に語っているのです。
ヤスミンコさんとその仲間たちは、これを本の中に写真として紹介するだけでなく、「どうにかして、これを世界中の現在の子どもたち、将来の子どもたちに見せてあげられないか」と考えるようになりました。
もちろん、それは「戦争なんか絶対にダメなんだ!」という、戦争経験者である彼らの痛切な願いからです。
ヤスミンコさんたちの「子ども戦争博物館」設立の提案はたちまち多くの人々の賛同を得、たくさんの「思い出」が集まりました。
そしてついに、この「子ども戦争博物館」はサラエボに誕生する運びとなったのです。
現在は場所の最終選考中で、具体的な開館日などは決まっていないものの、プロジェクトに弾みをつける目的もあり、今回の「プレ展示会」が開かれることになったのです。
実は同書の担当者であるワタシMKTは、休暇を利用して先日、サラエボに行ってまいりまして、その展示物の一部を見せてもらいました!
あいにくヤスミンコさんはギリシャに行っていて不在だったのですが、同プロジェクトのディレクターであるセルマさん(Selma Tanovicさん)とお会いして、その歴史博物館内にある準備室に案内してもらったのです!
セルマさん自身、サラエボ包囲がはじまったときに12歳で、そのときたまたまお父さんと市内に入っていたために家にいたお母さんと4年間、離ればなれに暮らしたという経験の持ち主。
戦争が終わってから、サラエボの医学校を出たのちにオランダやフランスに留学して文化人類学を学んだという才媛でもあります。
準備室では今、収集品の整理と同時に、子ども時代に戦争を体験した人たちのインタビューを収録するという作業をしているのだとか。
床に子ども部屋用のカーペットが敷かれているのは、インタビューされる人たちをリラックスさせ、子どもの気持ちに戻ってもらおうというヤスミンコさんのアイデアだそうですよ。
収集品の中にはセルマさんが編集したという手書きの雑誌も!
私のような戦後生まれの日本人にとっては戦争とは文芸作品や記録映像の中でしか触れることのできない、いわば「想像上のもの」でしかないのですが、こうした品々に「たとえ、どんな理由があったとしても、戦争は確実に子どもたちの生活をも変えてしまうんだなぁ」としみじみ感じてしまったものでした。(MKT)